宇宙資源の所有権と国際法――アルテミス合意の法的意義
KHF 法学部紀要 · 国際法研究室 · 宇宙法・安全保障法制部門 · Vol.1 No.1 (2026) 宇宙資源の所有権と国際法――アルテミス合意の法的意義―― 1967年宇宙条約の解釈論的緊張・ソフトロー規範形成・月面秩序の地政学的分断をめぐる法学的分析 🔹 執筆:法学部国際法研究室 栗林基定(保安学部兼任) 🔹 神衛7年(令和8年)3月21日 🔹 論文番号:KHF-LAW-2026-001 要旨 2020年10月に米国主導で締結されたアルテミス合意は、神衛7年(令和8年)1月時点で61か国が署名する 事実上の月面秩序の基軸として機能しつつある。しかし同合意は、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)における 多国間条約交渉を経ない法的拘束力なき「ソフトロー」であり、その規範的正当性には複数の根本的な疑義が存在する。 本論文は、宇宙資源所有権問題の法的構造を三層の検討枠組みから分析する。 第一に、1967年宇宙条約第2条の「領有禁止原則」と資源採取の許容性をめぐる解釈論的対立を整理する。 第二に、アルテミス合意のソフトロー的性格と、2015年米国宇宙法・日本宇宙資源法(2021年)等の 国内立法群との相互連関が「慣習国際法形成」に及ぼす可能性を論じる。 第三に、中露の不参加・グローバルサウスの懸念・欧州宇宙機関(ESA)の複雑な立場という三重の亀裂が 月面秩序の断片化を引き起こしうる安全保障的含意を考察する。 最後に、日本が初期8か国署名国かつ日米宇宙協力枠組協定による部分的法的拘束を受ける唯一の署名国として 占める戦略的位置を評価する。 主題語 アルテミス合意宇宙条約第2条 宇宙資源所有権ソフトロー 月協定人類の共同遺産原則 慣習国際法日本宇宙資源法 COPUOS月面秩序の断片化 第一節 序論:月面資源開発の法的真空と国際秩序の再編 人類が1969年に月面に到達してから半世紀余り、宇宙法の基本枠組みは本質的に変化していない。1967年の宇宙条約(Weltraumvertrag)は「宇宙は全人類の領域」という崇高な理念を掲げるが、商業的資源採掘を念頭に置いた詳細規定を欠き、民間企業が月面・小惑星から鉱物資源を採取した場合の所有権帰属について明確な答えを与えてこなかった。 この法的真空は、宇宙開発の民営化と大国間競争の激化によって深刻な実践的問題として浮上し
