KHF マクロ経済・地政学 日報
令和8年(2026年)3月16日(月)
ホルムズ封鎖4週目、同盟亀裂が露わに 今週はFOMC・日銀決定会合が最大の焦点
神田隼大研究機構(KHF)経済学部 執筆・編集
本日の最重要ニュース: 日英豪仏が正式にトランプのホルムズ護衛艦派遣要請を拒否。WTIは早朝102ドル台を突破し前週末比+3.8%。米国自身も「今は準備できていない」と認める異例の展開。
日経平均
53,819
▼633円 (▼1.16%)
WTI原油($/bbl)
102+
前週末比 +3.8% 続騰
USD/JPY
~159
円安水準継続
米10年債利回り
4.28%
上昇傾向継続
FF金利(現行)
3.50–3.75%
据え置き見込み
日英豪仏、護衛艦派遣を拒否――「同盟の亀裂」か「合理的自制」か
トランプ大統領は3月15日、ホルムズ海峡を通過するタンカーを護衛する多国間海軍連合の形成を同盟国に要求した。しかし日・英・豪・仏はいずれも即時派遣を否定。さらに皮肉なことに、米海軍自身も「今はまだ準備できていない」と公言するという異例の事態となった。
日本の高市首相は「護衛艦派遣については何ら決定していない。法的枠組みの中で何ができるか検討を続ける」と国会で答弁。オーストラリアのキャサリン・キング閣僚はABCインタビューで「要請を受けておらず、派遣もしない。それは我々が貢献する形ではない」と明言した。フランスは「最も激しい戦闘フェーズ終結後」の護衛任務は準備中としつつ現時点の派遣を拒否。英国は「集中的に検討中」としながら即時派遣に言及しなかった。
| 国・主体 | 回答 | 要点 |
|---|---|---|
| 日本 | 拒否 | 高市首相「法的枠組み内で検討」。憲法上の制約を理由に即時派遣否定。 |
| 英国 | 検討中 | スターマー首相は必要性に言及のみ。即時派遣には言及せず。緊張激化リスクを懸念と報道。 |
| オーストラリア | 拒否 | キング閣僚「要請を受けておらず、派遣もしない」とABCで明言。 |
| フランス | 条件付き拒否 | 戦闘フェーズ終結後の護衛任務を準備。EU「アスピデス」作戦に2隻のフリゲート投入予定。 |
| ドイツ | 拒否 | 外相「ドイツのホルムズ参加は即時の必要性もなく、参加もない」とテレビで発言。 |
| インド | 独自外交 | イランとの直接交渉でタンカー2隻の通過権を確保。外交解決モデルを実践。 |
| 米国(自国) | 未準備 | エネルギー長官ライト「今は準備できていない。全資産がイラン攻撃に集中」と認める。 |
軍事専門家の間には「外交合意なしに艦船を送ることは、安価な飛翔体に対して高価な軍艦をさらすことになる」との指摘もある。護衛連合の失敗を受け、本日のアジア市場でWTIは1%超上昇し104ドル台を一時突破した。
原油市場:102ドル再突破、3週間で2月末比+52%
WTI原油先物は本日早朝の取引で一時102ドル台を記録、前週末終値比3.8%の上昇。米・イスラエルによるイラン攻撃開始前の2月27日(67ドル)から3週間余りで1.5倍超となった。3月9日には一時119.48ドルまで急騰したものの、現在はその水準から約15%下の102ドル前後で推移している。
価格急騰を一定程度抑制しているのは政策対応だ。 IEAは3月11日に加盟32カ国が4億バレルの石油備蓄放出で合意したと発表(ホルムズ通過量の約20日分)。日本は本日付官報告示により民間備蓄を70日分→55日分に引き下げ、国家備蓄1カ月分との合計で過去最大規模の約45日分・8,000万バレルを放出する。米財務省も4月11日までロシア産原油の制裁緩和を実施済み。
一方でイランのアラグチ外相は15日のCBSインタビューで「米国との対話に関して良い経験はない」と交渉に否定的な姿勢を示しつつも、「多くの国々から打診を受けている」と述べ一部国への通過許可を示唆した。実際にインドは2隻のタンカー通過を既に確保している。
| シナリオ | WTI($/bbl) | ガソリン(¥/L) | 条件 |
|---|---|---|---|
| 現状(補助金あり) | 100〜102 | 161〜165 | 政府補助金継続中(19日出荷分から170円水準に抑制予定) |
| 補助金なし換算 | 100〜110 | 185〜200 | 補助金廃止想定の実勢価格 |
| リスクシナリオ | 110〜120 | 204+(史上最高) | 封鎖2〜3カ月継続(ニッセイ基礎研試算) |
📉日本株市場:東証プライムの9割超が値下がり 防衛・造船は逆行高
本日の日経平均株価は前日終値54,452円から633円安の53,819円(▼1.16%)で取引を終了。東証プライムでは値下がり銘柄が1,496銘柄(全体の9割超)に達し、33業種中31業種が下落する全面安の展開となった。
特に不動産・証券・銀行・金融株に売りが集中。半導体関連(アドバンテスト・東京エレクトロン)も利確売りに押された。一方、川崎重工業・日本製鋼所などの防衛関連には中東情勢を背景に買いが集まり逆行高。環境対応型船舶を手がける造船株は過去3年間で株価が約30倍と急騰、NVIDIAを上回る上昇率として注目されている。任天堂・コナミなどゲーム株も個人資金の流入で堅調だった。
| 区分 | 動向 | 主要銘柄・理由 |
|---|---|---|
| 下落セクター | 全面安 | 不動産(三菱地所等)、証券・銀行・金融、半導体(アドバンテスト・東京エレクトロン) |
| 逆行高 | 買い優勢 | 防衛関連(川崎重工・日本製鋼所)、ゲーム(任天堂・コナミ)、造船関連、安川電機(フィジカルAI) |
| 注目テーマ | 急騰継続 | 環境対応型造船株:過去3年で約30倍の急騰。NVIDIAを超える上昇率と指摘 |
なお専門家の間では「悪化が長期化すれば日経平均5万2,000円台も視野」との声もある一方、「原油高でインフレ懸念」「ナフサ(国内備蓄わずか3週間分)の輸入が医療・農業を直撃するリスク」を指摘する分析も出ている。
🏦金融政策:今週最大の注目はFOMC・日銀 スタグフレーション方程式に手詰まり
17〜18日のFOMCでは現行FF金利(3.50〜3.75%)の2会合連続据え置きがほぼ確実視されている。焦点は声明文のトーンだ。原油高によるインフレ再燃と景気減速が同時に進行する「スタグフレーション」の板挟みの中で、パウエル議長の記者会見での言葉遣いが市場の次の方向性を決める。なお5月にはパウエル議長の任期が満了。後継候補(ウォーシュ氏・ハセット氏)を巡る不透明感もくすぶる。
18日の日銀金融政策決定会合も現状維持の公算が大。植田総裁が原油高・円安(159円台)・物価見通しをどう語るかが注目点だ。円安放置は輸入インフレを増幅させ、追加利上げに踏み切れば景気減速を加速させるという二律背反が続く。貿易収支悪化→円安進行のスパイラルへの懸念も高まっている。
日本のエネルギー安保:官報告示と「三重苦」の現実
経済産業省は本日付官報で石油備蓄法に基づく民間備蓄義務を70日分→55日分へ引き下げ(1カ月間)。国家備蓄1カ月分との合算で過去最大規模・約45日分の放出が3月下旬から段階的に始まる。IEAとの協調放出前に日本単独で踏み切った異例の判断で、2022年(約2,250万バレル)の3.5倍超の規模だ。
しかし専門家はこの備蓄放出の効果を「心理的安定のための措置」と位置付ける。日本のガソリン価格は原油価格と為替レートで決まるため、備蓄放出で国内価格を全体的に押し下げる効果は限定的だ。現在はガソリン補助金(基金残高約2,800億円)で161〜165円台に抑制されているが、封鎖が長期化すれば基金枯渇のリスクが生じる。
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 原油輸入の中東依存度 | 約93〜94% | ホルムズ通過タンカーは輸入量の約80% |
| 石油備蓄日数 | 254日分 | うち国家備蓄146日分・民間備蓄101日分(IEA基準90日分を大幅超過) |
| 今回の総放出量 | 約45日分・8,000万バレル | 過去最大(2022年比3.5倍超)。3月下旬より段階放出 |
| ガソリン補助金基金残高 | 約2,800億円 | 封鎖が長期化すれば数カ月で枯渇リスク |
| ナフサ国内備蓄 | わずか3週間分 | 石化・医療・農業への影響が深刻化リスク。原油の254日分と大きく乖離 |
リスクマトリクス:本日時点の主要リスク
高 ホルムズ海峡長期封鎖
護衛連合が機能せず外交解決の目途も立たない場合、原油110〜120ドル以上が定着。スタグフレーション確率が大幅上昇。
高 FRBの政策ミス
インフレ vs 景気後退の板挟み。据え置き継続でインフレ期待が定着するリスク。パウエル後任人事の不透明感が重なる。
中 産油国インフラへの攻撃拡大
サウジ・アブカイク施設やイラクのバスラが攻撃される事態が現実化した場合、原油130〜150ドルシナリオが射程に。現時点では市場に未織り込み。
中 日本の円安・輸入インフレ
原油高×円安(159円台)の複合ショック。貿易赤字拡大→円安のスパイラル懸念。ナフサ不足が医療・農業へ波及するリスク。
注視 同盟国の護衛拒否後の米国の出方
日英豪仏の拒否を受けてトランプが何らかの報復的措置(関税等)を同盟国に課す可能性。G7結束への影響。
注視 中国・ロシアの動向
中国はイラン産原油を割引で継続調達中。封鎖で相対的優位。習近平訪問(月末予定)がトランプとの取引材料になるか。
今週の重要スケジュール
3月17〜18日
FOMC開催。金利据え置き確実も声明文のインフレ・スタグフレーション言及に注目。パウエル議長会見でのトーン変化を市場は注視。
3月18日
日銀金融政策決定会合。現状維持の公算大。植田総裁の原油高・円安コメントが焦点。追加利上げ時期の示唆があるか。
週内随時
米による船舶護衛合意発表の可能性。実現すれば原油急反落と日本株回復の契機に。但し軍事専門家は「外交合意なしでは機能しない」と懐疑的。
継続監視
WTI100ドル前後の攻防、USD/JPY 160円台接近リスク、イラン軍事作戦の進展(米「4〜6週間で完了予定、予定より早い」)、ベトナム等ASEAN諸国のエネルギー危機深化。
本日報は情報提供を目的としており、投資勧誘を意図するものではありません。
神田隼大研究機構(KHF)経済学部|令和8年3月16日
