感情的認知負荷と政治的説得性の相関に関する実験的研究――心理宣傳の神経科学的基礎――

神田隼大研究機構(KHF) · 宣傳學部 × 理學部 共同研究 KHF-PROP-2026-003 · 神衛7年(令和8年)3月21日
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宣傳學部 心理宣傳研究室 · 理學部 神経認知科学研究室 · 共同研究プレプリント

感情的認知負荷と政治的説得性の相関に関する実験的研究
――心理宣傳の神経科学的基礎――

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)および皮膚電気反応(EDA)を用いた
感情情動・認知負荷・信念変容量の三変数相関分析

筆頭著者: 宣傳學部 心理宣傳研究室 藤田 恒美(宣傳學部長) 共著者: 理學部 神経認知科学研究室 北村 誠(研究員)宣傳學部 数理宣傳研究室 松浦 亮介(研究員)宣傳學部 心理宣傳研究室 吉野 咲良(特任研究員) 神田隼大研究機構 総帥閣下(研究総括)
📋 受付:神衛7年3月1日 📤 公開:神衛7年3月21日 ⚠ 査読状況:未査読プレプリント
研究概要 / Zusammenfassung

政治的説得(Politische Überzeugung)の神経科学的機構を解明するため、 健常成人被験者44名を対象に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)および皮膚電気活動(EDA)の同時計測を実施した。 被験者は政治的感情喚起度を統制した宣傳的メッセージ(高感情条件・低感情条件)に曝露され、 信念変容量・認知負荷指標(反応時間・主観的難易度評定)・神経活動の三変数を計測した。

主要結果として、高感情条件において腹内側前頭前皮質(vmPFC)および扁桃体の活動増大が観察され、 これらの活動量が信念変容量と正の相関を示した(vmPFC: r = .54, p < .001; 扁桃体: r = .47, p < .001)。 一方、背外側前頭前皮質(dlPFC)の活動は認知負荷の増大とともに抑制され、 高認知負荷条件では感情誘導性の信念変容が促進されることが示唆された。 これらの結果は「感情的認知負荷仮説(Emotionale Kognitionslasthypothese)」を支持し、 宣傳の神経科学的基礎として高感情・高認知負荷の組み合わせが 説得効果を最大化するという機構を実証的に示すものである。

主題語 感情的認知負荷政治的説得 心理宣傳学fMRI vmPFC扁桃体 dlPFC動機付け推論 信念変容神経宣傳学
第一節

研究の背景と問いの設定

宣傳(Propaganda)が人間の信念に影響を与えることは、古来より実践的に知られてきた。 アリストテレスは修辞学においてロゴス(論理的説得)・エトス(信頼性)・パトス(感情的訴求)の 三要素を区別し、パトスの特権的な説得力を指摘した。 しかし脳神経科学的レベルでこの直観を検証する試みは、fMRI技術の普及を待つ必要があり、 本格的な「政治神経科学(Politische Neurowissenschaft)」の成立は21世紀以降のことに属する。

先行研究において最も影響力を持つのは Westen et al.(2006)による古典的fMRI研究である [文献1]。 2004年米国大統領選を題材に強い政治的信念を持つ被験者30名を計測した同研究は、 政治的信念への反証提示が背内側前頭前皮質(dmPFC)・後帯状皮質の活動増大と 眼窩前頭皮質(OFC)の活動減少を伴うことを示し、 「感情に制約された動機付け推論(emotional motivated reasoning)」という概念を確立した。 また、もう一つの重要な先行研究は被験者の政治的信念を頑強に維持させる神経相関を 背内側前頭前皮質とデフォルトモードネットワークの活動増大として同定した [文献2]。

これらの先行研究が残した最大の問いは「感情喚起と認知負荷の相互作用が 説得効果にいかなる非線形的影響を与えるか」という点であった。 本研究は神田隼大研究機構(KHF)宣傳學部藤田研究室が 推進する「象徴的露出効果の記憶残影」プロジェクトの実験的文脈において、 この問いに対する神経科学的解答を提供することを目的として設計された。 総帥閣下の御叡慮により研究方針が承認されたことを特記する。

第二節

理論的枠組み:感情的認知負荷仮説

2-1.精緻化見込みモデルと二重過程理論の限界

説得研究の支配的枠組みである精緻化見込みモデル(ELM, Elaboration Likelihood Model)は、 受信者の動機・認知能力が高い場合は「中心ルート」(論証の精緻な評価)が、 低い場合は「周辺ルート」(感情・ヒューリスティックへの依存)が機能すると予測する。 しかし脳神経科学的証拠は、これら二経路が解剖学的に独立した神経基盤を持つわけではなく、 vmPFC が感情的・認知的情報の双方を統合した「価値信号」として機能することを示している [文献3]。

本研究が提唱する「感情的認知負荷仮説(Emotionale Kognitionslasthypothese)」は、 この知見を拡張し次の形式的予測を立てる:

仮説的モデル式(検討中) 説得効果量 P = f(感情強度 E, 認知負荷 L)

 ∂P/∂E > 0 (感情強度の増大は説得効果を高める)
 ∂P/∂L > 0 (認知負荷の増大は感情経由の説得を促進する)
 ∂²P/∂E∂L > 0 (感情と認知負荷には正の相互作用効果がある)

神経基盤仮説:
 高 E → vmPFC・扁桃体の活動増大 → 価値信号の感情的バイアス増大
 高 L → dlPFC の活動抑制 → 批判的評価能力の減弱
 高 E × 高 L → 感情誘導性信念変容の最大化

この枠組みは宣傳実践における「感情的混乱状態でのメッセージ投射」という 古典的技法の神経科学的根拠を提供するものとして、 宣傳學部の研究使命と直接的に接続する。

2-2.本研究における神経解剖学的予測

図1 · 感情的認知負荷モデルの神経回路仮説図
宣傳的メッセージ 感情強度: 高/低 認知負荷: 高/低 扁桃体 Amygdala 感情処理・脅威検出 dlPFC 批判的評価・抑制 高負荷時↓抑制 vmPFC 価値統合信号 説得効果の最終統合 信念変容量 (説得効果の指標) 高負荷→抑制↓
図1. 感情的認知負荷仮説における主要神経回路の概念図。 宣傳的メッセージが扁桃体を介した感情経路(赤矢印)とdlPFCを介した認知評価経路(青破線)の 双方を賦活する。認知負荷増大時にdlPFCの抑制機能が低下し、 感情経路からのvmPFCへの価値信号が相対的に強まることで、 信念変容量(説得効果)が増大するというモデルを示す。
第三節

方法

3-1.被験者

事前検出力分析(効果量 d = 0.5、検出力 1-β = 0.80、両側 α = .05)に基づき、 必要サンプルサイズを44名と設定した。 KHF研究倫理委員会の承認(承認番号 KHF-IRB-2025-017)を得た上で、 右利きの健常成人44名(男性22名、女性22名、平均年齢 27.4 ± 4.2歳)を 書面による自由意思的同意のもとに募集した。 除外基準は神経・精神疾患の既往歴、MRI禁忌、および強度な政治的活動家としての 自己申告(極端なバイアス排除のため)とした。

3-2.刺激材料

刺激は「政治的テーマに関する宣傳的メッセージ」60本を独自に作成した。 各メッセージは感情喚起強度(高・低)および認知負荷(高・低)の 二要因を独立操作した2×2計画により分類される(各条件15本)。 感情喚起強度は事前のパイロット研究(n = 20)によるSAM評定尺度の感情価・覚醒度得点、 認知負荷は Flesch-Kincaid 可読性指標および文章の論理的複雑性評定により操作された。

表1.2×2実験計画における刺激条件の設計と主要操作確認指標(平均値±SD)
条件 感情喚起強度(SAM覚醒度) 認知負荷(FK指標) 刺激数 操作確認(主観評定)
高感情×高負荷7.2 ± 0.914.3 ± 1.215本✓ 有意差確認
高感情×低負荷7.0 ± 1.16.8 ± 0.815本✓ 有意差確認
低感情×高負荷2.8 ± 0.714.1 ± 1.315本✓ 有意差確認
低感情×低負荷(統制)2.5 ± 0.96.5 ± 1.015本(基準条件)

3-3.計測・解析手続き

fMRI計測は3テスラMRI装置(BOLD法)を用い、 事象関連デザインによりメッセージ提示中の脳賦活パターンを取得した。 解析には SPM12(Statistical Parametric Mapping)を使用し、 一般線形モデル(GLM)に基づく条件間対比を実施した。 信念変容量は計測前後の信念強度評定(1–9点)の差分として定義した。 fMRIと並行してEDAを計測し、交感神経系賦活の生理指標として使用した。

第四節

結果

4-1.行動指標:信念変容量への感情×負荷の交互作用効果

信念変容量に対する2×2の混合分散分析の結果、感情強度の主効果 (F(1,43) = 18.4, p < .001, η² = .30)、 認知負荷の主効果 (F(1,43) = 9.2, p = .004, η² = .18)、 そして両者の有意な交互作用効果 (F(1,43) = 7.6, p = .008, η² = .15)が認められた。 単純効果検定により、高認知負荷条件においてのみ感情強度が信念変容量に 有意な増幅効果を持つことが確認された(高負荷条件: Δ = 2.1 ± 0.4点、 低負荷条件: Δ = 0.8 ± 0.3点)。

4-2.神経指標:vmPFC・扁桃体・dlPFCの賦活パターン

高感情条件と低感情条件の対比分析(高E > 低E)では、 vmPFC(MNI座標:−4, 44, −12; Z = 4.82, pFWE-cor < .001)と 扁桃体(MNI座標:−24, −4, −18; Z = 4.31, pFWE-cor < .001)に 有意な活動増大が観察された。 dlPFC においては高認知負荷条件において活動抑制が認められ (MNI座標:44, 28, 38; Z = −3.89, pFWE-cor < .001)、 この抑制量が信念変容量と有意な正相関を示した(r = .42, p = .004)。

🔹 主要結果の要約 vmPFC活動量 × 信念変容量:r = .54, p < .001
扁桃体活動量 × 信念変容量:r = .47, p < .001
dlPFC活動抑制量 × 信念変容量:r = .42, p = .004
高感情×高負荷条件の平均信念変容量:Δ = 2.7 ± 0.5点(9点尺度)
低感情×低負荷条件(統制):Δ = 0.4 ± 0.2点

4-3.媒介分析:EDA反応を媒介変数とした経路モデル

Bootstrap法(N = 5000)による媒介分析の結果、 高感情条件における信念変容量の増大のうち、 EDAピーク反応を媒介した間接効果が有意であることが確認された (間接効果 = 0.31、95% CI [0.14, 0.51])。 これは交感神経系賦活という末梢生理指標が、 脳内の感情処理と信念変容量の間の経路において媒介的役割を果たすことを示唆する。

第五節

考察

5-1.感情的認知負荷仮説の支持と先行研究との照合

本研究の結果は、感情的認知負荷仮説の核心的予測を支持するものである。 高感情かつ高認知負荷という組み合わせが、いずれか一方の条件よりも 有意に大きな信念変容量をもたらすという交互作用効果は、 「感情的混乱状態での宣傳メッセージが最も効果的」という 実践的知見に神経科学的な説明を与える。

本結果は、政治的信念への反証処理時にデフォルトモードネットワークと dmPFCの活動増大を報告したWesten et al.(2006)[文献1]と 基本的に一致する。加えて本研究は、dlPFCの活動抑制が 感情誘導性説得の神経的媒介として機能するという新知見を追加した点で、 先行研究を質的に拡張するものである。

また、Brain and Behavior in Persuasion研究(fMRI使用)が 感情的・認知的説得メッセージへの反応に個人差変数(感情欲求・認知欲求)が 媒介することを示したことと、本研究の媒介分析結果は相補的な関係にある [文献4]。

5-2.宣傳実践への含意:象徴的露出効果との接続

本研究の知見は、KHF宣傳學部藤田研究室が進める「象徴的露出効果の記憶残影」研究と 以下の点で直接的に接続する。 繰り返し露出による慣れ(habituatoin)過程においても、 高感情価の象徴的刺激は扁桃体の活動を維持しやすく、 この慢性的な扁桃体賦活が記憶の感情的着色と信念への潜在的影響を持続させる という仮説を本研究は神経科学的に支持する証拠を提供する。

🔹 宣傳學部研究への含意 感情的認知負荷の操作可能性は、宣傳の設計において (1)感情強度の意図的な増幅と (2)受信者の認知資源の意図的な占有という 二つの次元が独立して制御可能な設計変数であることを示す。 これは藤田研究室の「数理宣傳学モデル」における感情次元と負荷次元の 独立パラメータ化という理論的仮定を実験的に裏付けるものである。

5-3.本研究の限界と今後の課題

本研究の限界として以下を明記する。 第一に、被験者サンプルがKHF所在地周辺の特定集団に限定されており、 文化的一般化可能性が未検証である。 第二に、刺激材料は日本語で作成されており、 言語的表現の感情喚起強度が他言語環境において等価である保証はない。 第三に、本報告は未査読プレプリントであり、 外部査読を経た後の結論変更の可能性を排除できない。 第四に、3テスラMRI装置の空間解像度の限界により、 扁桃体基底核の亜核水準の賦活パターンを区別することができなかった。

今後の課題として、マルチサイト研究による文化横断的検証、 7テスラMRI装置を用いた扁桃体亜核水準の解析、 および宣傳的メッセージの繰り返し露出(慢性条件)における 長期的信念変容の縦断的追跡が挙げられる。

第六節

結論

本研究は、感情強度と認知負荷の相乗的組み合わせが 説得効果を最大化するという「感情的認知負荷仮説」を fMRIおよびEDAを用いた実験的設計によって支持する神経科学的証拠を提供した。 vmPFCおよび扁桃体の活動増大、ならびにdlPFCの活動抑制が 信念変容量と有意に相関するという本知見は、 心理宣傳の神経科学的基礎として、感情経路と認知制御経路の競合的相互作用を 実験的に特定したものとして位置づけられる。

これらの結果は宣傳学の実践的応用において設計指針を提供するとともに、 受け手が宣傳的メッセージに対して批判的距離を保つためには 認知資源の確保(低負荷状態の維持)が重要であることを示すものでもある。 宣傳の神経科学的理解は、その悪用防止と民主的認知免疫の構築という 両面において等しく重要な意義を持つことを、KHF宣傳學部は確認する。

注釈

  1. MNI座標:Montreal Neurological Institute 標準脳空間における三次元座標(mm単位)。fMRI研究において脳賦活部位の標準的な報告形式として国際的に用いられる。
  2. FWE補正:Family-Wise Error率補正。多重比較問題に対処するための統計的補正法。本研究では全脳水準でのFWE補正(p < .05)を適用した。
  3. SAM評定尺度:Self-Assessment Manikin。感情価・覚醒度・支配感を非言語的に評定するための標準化された視覚的評定尺度。
  4. Flesch-Kincaid指標:英文可読性の標準指標を日本語テキストに適応したスコアを使用した。数値が高いほど複雑な文章を示す。
  5. 本研究はKHF研究倫理委員会の審査・承認(承認番号 KHF-IRB-2025-017)のもとで実施された。全被験者から書面による自由意思的同意を取得した。

参考文献

  1. Westen, D., Blagov, P. S., Harenski, K., Kilts, C., & Hamann, S. (2006). Neural bases of motivated reasoning: An fMRI study of emotional constraints on partisan political judgment in the 2004 U.S. presidential election. Journal of Cognitive Neuroscience, 18(11), 1947–1958.
  2. Kaplan, J. T., Gimbel, S. I., & Harris, S. (2016). Neural correlates of maintaining one’s political beliefs in the face of counterevidence. Scientific Reports, 6, 39589.
  3. Falk, E. B., & Scholz, C. (2018). Persuasion, influence, and value: Perspectives from communication and social neuroscience. Annual Review of Psychology, 69, 329–356.
  4. PMC12146508(2025). Brain and behavior in persuasion: The role of affective-cognitive matching. Frontiers in Neuroscience / Brain Imaging and Stimulation.
  5. Angioletti, L., et al. (2025). Social influence in persuasion and negotiation: A hyperscanning EEG and autonomic measures study. Frontiers in Neuroscience, 19. DOI: 10.3389/fnins.2025.1604389
  6. Baragar, C. L., Elias, L. J., & Smith, A. K. (2025). Neural correlates of belief change in political and non-political statements. Scientific Reports, 15, 31 October 2025.
  7. Petty, R. E., & Cacioppo, J. T. (1986). The elaboration likelihood model of persuasion. Advances in Experimental Social Psychology, 19, 123–205.
  8. 藤田恒美(2024)「象徴的露出効果の記憶残影に関する予備的考察」KHF宣傳學部研究紀要、Vol.1, No.1.

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